セラピー中に注意すべき6つのこと

セラピープロセスは、とても、長く、繊細なものです。一気に何かを達成したり、「なりたい自分になる!」と、マインドで決めたことを達成する道のりではありません。

継続的なセッションこそが、効果を生みますが、だからこそ、プロセス中は、様々な反応が生じます。

今回は、セラピープロセスの中で、マインドの罠にはまらず、本来の自分の力を取り戻すために、とても大切な6つのことを解説していきます。


セラピー中に注意すべきこと1:転移と逆転移を見極める

セラピー中に、セラピストに親を転移(かつての誰かとの関係を、無関係の相手との関係に使うこと)することはよくあることですが、インナーチャイルドワークは、様々なセラピーの中でも、セラピストが転移を受けやすいと言われています。

なぜなら、クライアントが内なる子どもを意識することで、子どもである自分を刺激してしまい、セラピストに親や教師を見やすくなってしまうからです。

無意識を扱うセラピーですから、無意識で生じる転移を避ける必要はありません。

転移が起こらないのが何よりですが、起きた時にそのことに気がついていることの方が重要です。

もちろん、そのために、セラピストは自分自身にしっかりと向かい合い、転移を落とし、逆転移と呼ばれる、相手の転移に応じることがないように、意識的なあり方を磨く必要があります。

クライアントの過剰な転移には、セラピストが個人の尊厳を傷つけられるようであれば、しっかりとNOを伝えて、境界線を明確にすべきです。

ですが、だからといって、クライアントが起こす転移を100%発生させないことは不可能です。

セラピー中ならセッションで扱っていくこともできますが、転移を起したままセラピーをやめてしまうクライアントには、手の施しようがありません。

何が起こっても、それは、その人の人生の選択なのだと信頼して、いつかどこかで、その人がその転移の奥にある痛みを超えていくことができるように、静かにその人の背中に、魂の友として、頭を下げていたいと思います。

「助けられなかった」などいう無力さを感じているのだとしたら、それは、セラピストのエゴでしかなく、それこそが、クライアントが転移を起こす原因であることに、気がついている必要があります。

このことを自覚して、セラピストは、ただただ、自分の仕事を続けるしかありません。

 

セラピー中に注意すべきこと2:効果をしっかり感じる

セラピーをやっても、一向に自分の人生が良くならないとか、体調がどんどん悪くなるとか、パートナーシップが大変な状態だとか、子どもの不登校が改善しないとか、、、そのような話は時々聞きます。

1つだけ明確なことは、言語化のセラピーを3ヶ月続けながら、何も改善を感じなければ、やり方が間違っているということです。

この場合、本人の受け取り方が間違っているか、セラピストがふさわしくないか、どちらかです。

また、本人があまりに重度のサバイバーの場合(ACE5以上)、3ヶ月くらいから半年くらいで、好転反応が出てくる場合があります。

基本的に、重度であればあるほど、セラピープロセスは長くなりますが、だとしても、必ず変化を感じながらの道のりですから、一切変化がないということはありません。

どれだけ重度のサバイバーであっても、半年から1年の間に、人生がうまく行き始めていると自覚できなければ、セラピーの効果を受け取っていません。

一年以上経った時には、自分らしさを探求したいという気持ちが湧いてくることもあります。

もし、それくらいの時間が経過しても、全く変化を感じないのなら、セラピストを変えるか、本人が自分のあり方を見つめ直すべきです。

セラピー中に注意すべきこと3:プロセスに乗る

毎回のセッションは素晴らしいのに、なぜかすぐに過去のパターンに戻ってしまい、結果、明確な変化が感じられないという話もよく聞きます。

この場合、セラピープロセスが、そもそも途切れてしまっていて、セラピーは困った時の助け舟だと認識されています。

セラピーは、プロセスと呼ばれる成熟の道のりに沿って行きますが、困った時の助け舟を必要としているなら、一方では、困ってしまうシチュエーションを望んでいますから、人生は、大波に揺られっぱなしです。

非常に過酷な人生ですが、幼い頃に、この過酷さに慣れてしまっているので、平和で凪のような人生の優しさは、深い場所で拒絶しています。

そのため、プロセスは常にぶつ切れのまま、困窮と救いの両極を行ったり来たりしてしまいます。

これは、一種の中毒で、ドラマ中毒、感情中毒とも呼ばれます。

人生に凪が訪れると、感情はなくなりませんが、常に感情的である必要はなくなり、事実をただありのままに眺められるような静けさがやってきます。

ドラマとも無縁ですから、誰かのおしゃべりや、感情の話には、さほど興味が湧かなくなります。

体を動かしたり、笑ったり、ただ、目に見える現象を静かに楽しんでいる時間が増えますので、感情に一喜一憂し、友人と感情の話で盛り上がることは少なくなります。

頭の中のおしゃべりが少なくなり、現実(見えるもの)にしか興味がなくなるというのは、ドラマ中毒、感情中毒を卒業しているという成長の通過点です。

セラピー中に注意すべきこと4:“そんな自分が好き”という条件付けを見破る

ある程度セラピーが進んだ状態でも、この期間を足踏みすることがよくあります。

これが生じている場合、プロセスは少々難しいものとなります。

なぜなら、本人が満足してしまっているからなのですが、この場合、非常に強烈な条件付の中にあるので、実際には、まだ生きづらさでいっぱいです。

こだわりや完璧主義に支配されていますが、本人のアダルトチャイルドがそれを望んでいますから、変化させようというモチベーションそのものがありません。

それをやっていうちは、いつも疲労感があり、「こんなことをしている自分が好き」という条件付による有頂天と疲労感を行ったり来たりしてしまいます。

これも中毒症状なのですが、中毒している時は、本人は無自覚なので、中毒しながら、つかの間の快楽に満足しています。

もはや、人生は完璧で、セラピーは必要ないようなそぶりを本人は見せますが、関係性や人生そのものは、困難さに苛まれていますから、セラピープロセス中にここにはまっているとしたら、だからこそ、そのことに気がつき、セラピーを進めて行く必要があるのです。

好きであることは、とてもナチュラルなことなので、マインドでこだわって、手繰り寄せて、作り上げるものではありません。

また、好きなことをやっている最中は喜びとともに、心地よい感覚があるだけですから、「そんな自分が好きだ」という解離した感覚はありません。

ですが、これは、かつて痛みから立ち上がるために、何度もこの有頂天を利用してきたことによる脳内のドーパミン過多による反応ですから、なかなか本人の意志でだけではやめられません。

セラピー中に、好きなことを見つけることは、とても大切なのですが、それにのめり込んで、大切なセラピープロセスを中断してしまうとしたら、それはマインドの罠であるとわかっていることが大切です。

中毒落としは、非常に慎重に進めていく必要がありますし、とても時間がかかります。

 

セラピー中に注意すべきこと4:拒絶と孤独のパターンをやめる

サバイバーの反応の中でも、最も難しいものが、拒絶と孤独です。

この場合、セラピストに激しい転移を起していて、かつて親へ向けられてた憤りを、セラピストに向けています。

ですから、セラピストを不十分だと言ったり、冷酷な言葉や拒絶によって、セラピストを傷つけようとします。

そして、相手より大きく出ることで、瞬間的に、自分は正しいという満足感を得ますが、拒絶は、結局、孤独を生じさせます。

また、孤独であることが、自分らしいという感覚があるのも、特徴的です。

意識的なセラピストであれば、クライアントが何を言っても動じることはありませんし、尊厳を傷つけられるような言葉には、NOを言うだけです。

転移を起した人が、どれだけ自分を傷つけようとしても、それは、本来、自分に向けられていることではないと知っていますから、残念な終焉に、ただ、残念さを感じるのみです。

その場合、その人はセラピストを貶めることに勝利はしていませんし、セラピストの人生は相変わらず平穏です。

残念なことは、残念なだけで、それ以上の意味はありませんが、拒絶と孤独を繰り返す人にとって、残念さは関係性の終焉です。

 

セラピー中に注意すべきこと5:罪悪感と自己卑下をやめる

セラピストとしては、とても驚きのことでもありますが、セッションを受ける本人が、「セラピストの期待に応えていない」と思う場合があります。

クライアントとして、料金を支払い、忙しい時間を工面して、自分のためにセッションを受けているはずなのに、いつの間にか、セラピストの期待に応えようという気持ちになってしまうのです。

それに無意識の時、期待に応えられない自分を卑下して、セッションが継続できなくなってしまうことがあります。

セラピストは仕事をしています。

そして、クライアントは、セラピストの技能を利用するために、料金を支払いサービスを受け取っています。

極端な話をすれば、クライアントはセラピストを使っていいのですし、セラピストはそのために、クライアントの鏡となってそこにいます。

必要な心の知識を伝えることも、セラピストの仕事です。

クライアントは、堂々とセラピストの前で、困ったことを話していいですし、泣いてもいいですし、怒ってもいいですし、悲しんでもいいのです。

セラピストと契約をして、自分自身の成長の道を歩んでいるのは、クライアント自身であり、自分にこそ主権があることを忘れずに。

 

セラピー中に注意すべきこと6:自分の豊かさと喜びのためという主導権を放棄しない

セッションを受ける目的は、セラピストのためではないというのは当然です。

それは、自分自身の豊かさと喜びのためです。

自分自身の豊かさと喜びに、どんなことが含まれるでしょうか。

パートナーのこと、子どものこと、仕事のこと、お金のこと、健康のこと、自分の人生に関わるあらゆることが、自分自身の豊かさと喜びに関わっているはずです。

どれか1つだけしか叶えらないということはありません。

セラピーでは、自分自身を整えるのですから、あらゆることの中心にある自分が整うと、人生に関わる全てのことに、本来良い影響があるはずです。

何度も何度も気づきを重ねながら、自分の周囲に、意識的な渦を起こしていきましょう。

あるべきものが、あるべき場所へ戻り、ありのままの自分と自分の本当の人生が、自然にそこに現れるはずです。

私は、セラピストして、ではなく、かつてセラピストに何度も転移や投影を繰り返してきた傷ついた子どもだったクライアントとして、また、十分にセラピーから恩恵を受け取ってきたクライアントとして、一人でも多くの人が、一日も早く、セラピーの効果を受け取っていただけるように、活動をしていきたいと思っています。


ライター
  • 川村法子 2018年2月8日川村法子
    ハートエデュケーションセンター、Pranava Life代表。これまでに不登校、ひきこもり、心身症、アレルギーなどの身体の症状、依存症、DVや小児期の虐待(身体的、精神的、ネグレクト、性的)によるPTSD、関係性の問題、お金や仕事の問題などを、解決へと導いてきた…