サバイバーについて考える Vol.8 愛の喪失からの回復のために必要な3つのこと

「子どもたちはひどく扱われても、自分の振る舞いを変えれば事態が変わるという望みにしがみつきます。この非現実的な子どもの願望は、周りの大人達は頼りにならず、有害で制御しきれないものだと諦めないように無理に思い込んだ結果、起きてくるのです。」

「よくあることですが、成長した子どもは、虐待者の行為を正当化したり、自分のせいだとせめて、虐待者を保護しつづけます。」

「責任を置くべきところにおくのは、サバイバーが一番したくないことです。喪失に直面するので苦痛になりすぎるからです。」

もしも大切な人が子どもの頃に性虐待にあっていたら/ローラ・デイビス著


虐待を受けている子どもが、虐待者である親をかばうことはよくあります。

虐待のサバイバーたちが、自分が虐待されていたことを認めるのは、セラピー開始から半年以上経ってからということも珍しくありません。

それまでは、それ以外のこと(例えば自分の性格や考え方、パートナーの問題や子ども自身の事など)に問題があると思い込み、生きづらさの原因を見つけようとする彼らが、真の原因は親からの虐待による身体的損傷(神経、シナプス、ホルモン)であることを自覚するのには、認知能力の回復が必要です。

虐待のショックで、認知能力そのものが麻痺しているため、認知までに時間がかかることは当然で、そのことについて彼らに非があるわけではありません。

また、心理的には「親にも理由があったから」「私が悪かったから」と、彼らは、現実に起こったことの痛みを軽く見積もって、親を正当化し、虐待の事実について話すことを、無意識に避けているとも言えます。

それは、親を助けて、愛されようとする、傷ついた子どもの無意識の愛の戦略です。

また、1、2回、セラピーを受けたことで、全てが解決したかのように振る舞うサバイバーもいますが、それは、ほとんどの場合、それ以上見たくないと思っている防衛で、傷が深刻であればあるほど、継続的で丁寧なセラピーが必要になります。

サバイバーにとって大切なことは、痛みの事実を認めることです。

それは、残念な事実であり、幼い自分には非常に過酷なことで、本来なら保護される必要があったと、虐待者の罪を認め、彼らの行為にノーと言える自我を芽生えさせることです。

サバイバーたちが立ち直る過程の一つに、怒りを取り戻すということがあります。

これは、治癒のプロセスの一つなので、この場所に居続けることは防衛でもありますが、治癒の一つの段階として、とても大切です。

怒りを取り戻す行為は、自分のパワーを取り戻すことに直結します。

つまり、健全な自我によるNOという声が、自分自身の尊厳を取り戻すことにつながるのです。

この段階において初めて、虐待のサバイバーたちは、自分に起こったことを悲しむことが有効になります。

ですが、怒りを取り戻す前の悲しみは、防衛でしかなく、自己憐憫の悪循環が続き、回復は遠くなります。

多くの虐待のサバイバーたちが、虐待について一度もセラピーを受けずに、ポジティブシンキングや、心地の良いヒーリングなどでトラウマに対処している状況については、セラピーの現場からは真剣に問題定義する必要があります(もちろん、サバイバーたちが傷と向かい合うための勇気を得るために、ヒーリングを受けることは有効ですが、それだけでは決して治癒とは言えません。)。

成功哲学や、心地よいヒーリングは、本人たちが健全な自我を取り戻した後には有効になるでしょうが、それまでは、むしろ、傷を隠す防衛として利用されることが多いのも事実です。

サバイバーたちの治癒の土台となる在り方は、以下の3つです。

1)親を助けられないことを認める
2)自分の人生に残念なことが生じた事実を認める
3)責任の所存を明らかにする

サバイバーたちに、この意識が育って初めて、ヒーリングやセラピーが有効となります。

つまり、《愛の喪失》という事実に、しっかりと向かい合うことによって、サバイバーたちは自分の本当の人生をスタートすることが可能になるのです。

癒しと、そこから始まる、本当の人生のためには、何よりもまず、虐待による神経システムの怪我を治癒し、健全な自我を育てることが、必要です。

※この文章を読む際の留意点
虐待の定義は、身体的、精神的、性的、ネグレクトと言われていますが、サバイバーの傷は、外部から見えやすい定義可能な虐待だけが原因とは言えません。ハートエデュケーションセンターでは、外部からはわかりにくいケアされない痛み、つまり、親が子の感情をネグレクトすること、バーストラウマ、機能不全家族の問題、家系から受け取ってきた負の連鎖なども、サバイバーを生み出す原因であると考えます。

※この記事は、過去のFacebookページの投稿を加筆修正しています。

ライター
  • 川村法子 2018年2月8日川村法子
    ハートエデュケーションセンター、Pranava Life代表。これまでに不登校、ひきこもり、心身症、アレルギーなどの身体の症状、依存症、DVや小児期の虐待(身体的、精神的、ネグレクト、性的)によるPTSD、関係性の問題、お金や仕事の問題などを、解決へと導いてきた…