サバイバー回復レポートVol.1 考え方は変えられない

2020.12.2

「考え方を変える」というフレーズをよく耳にします。

ビジネスコンサルでよく使われるコーチングやポジティブシンキングなどの思考法などは、考え方を変えて、現実をよくしようとするやり方です。

これらは、ある一定の健康を手に入れている人にとっては役立つものだと思います。

ある一定の健康とは、小児期トラウマが限りなく少なく、安定して就労が可能で、誰かとの温かな関係性があり、適度な運動ができて、中毒はなく、悩み事を相談できる相手がいて、自己成長をのぞみ、時にチャレンジできる勇気があって、目的なく自由に楽しむことを自分に許可していて、笑顔のある日々を送っている状態と言えます。

それが可能かどうかは、逆境的小児期体験スコアと呼ばれる、ACEスコアの数値によります。

スコアが限りなく0に近く、小児期トラウマのない私の友人は、ある時本屋で手にしたコーチングの本で、悩んでいた夫との関係性が変わったのだと言います。

私は、心底驚きました。

ACEスコア4というハイスコアの小児期トラウマサバイバーの私にとって、1冊本を読んだだけで、関係性が変わるなんて、夢のまた夢。

長年受け続けてきた対面のセラピーやワークショップ、海外まで飛んだ長期のトレーニングがなければ、私の今のパートナーや子どもたちとの明るい家庭環境は、到底ありえませんでした。

週末になるとぐったりして、寝込んでしまい、子どもたちと楽しい週末の時間が過ごせなかった原因が、ファミリーコンステレーションのトレーニングと個人セッションで明らかになりました。

私が、週末にぐったりしていたのは、休みモードに入った途端、過去に受けた性的トラウマの傷が蘇ってきて、その怒りと恐怖が抑圧された無意識が、私を楽しんだり、喜んだりすることから、遠ざけていたからだとわかりました。

ただ近くの公園に出かけて、子どもたちとボールで遊んで、笑いあうというささやかな喜びすら、トラウマサバイバーの私には得られなかったのだと、自分に優しく気づくことができたのは、セラピーのおかげでした。

ですから、本屋で偶然見つけた1冊の本を読んで、関係性が変わるなどと、トラウマサバイバーの私には到底信じられなかったのです。

トラウマ療法を長年受けてきた私が、実体験としてわかるのは、コーチングや思考法が有益なのは、トラウマサバイバーではない場合だということ。

トラウマサバイバーである限り、考え方を変えるやり方は、むしろ、負荷が大きいと思っていいくらいです。

サバイバーにとって考え方というものは、認知能力を取り戻し、神経の傷が回復する過程で、《変わるもの》ではあるかもしれないけれど、頑張って《変えるもの》ではないということです。

また、「考え方を変える」ということに固執していることそのものが、トラウマサバイバー的思考と言えます。

いつも罪悪感でいっぱいで、自分をジャッジしていて、出口のない問題を抱え、良い人をしながら、いつも怒りは抑圧され、いつも正しい答えを探して、頭の中がぐるぐると渦を巻いている・・・

それは、かつての私です。

私がそうだったように、生きづらさを抱えるトラウマサバイバーにとっては、それが常なので、それ以外の在り方など想像できません。

今こうやって、頭の中がクリアで、もはやアルコールやタバコを摂取する必要はなく、ハートは軽く、考え事はなくて、どうでもいいことで笑い、目的なく楽しむことができて、人前で話すことが可能になり、困った時は信頼できる誰かに相談できて、深刻な会話以外で誰かとつながり、断る時ははっきりNOをいい、自分や愛する人を守るための選択ができて、良い人になる必要はなく、情熱を注ぐミッションがあり、時々は誰かに嫌われているだろうということをOKしている自分がいることなど、全く想像できませんでした。

少なくとも、私は、30数年間、そのような状態を知らずに生きてきました。

続く

ライター
  • 川村法子 2018年2月8日川村法子
    ハートエデュケーションセンター、Pranava Life代表。これまでに不登校、ひきこもり、心身症、アレルギーなどの身体の症状、依存症、DVや小児期の虐待(身体的、精神的、ネグレクト、性的)によるPTSD、関係性の問題、お金や仕事の問題などを、解決へと導いてきた…