20.12.3

逆境的小児期体験スコア(ACEスコア)がハイスコア群の4で、深刻な身体的精神的症状に苛まれていた私が、どんな風にこの15年で回復してきたのか、改めて辿ってみたいと思います。

自分に起こっていることを整理する力

かつての私がそうであったように、混乱した頭で、混乱した現実に直面してる時、八方塞がりでどうしていいかわからなくなります。

いまだに思い出すある出来事があります。

今から、13、14年前、今年15歳になる娘が、1、2歳くらいのときですが、娘の爪が伸びっぱなしで、私は、なかなか切ってあげることができませんでした。

日中は落ち着いて切らせてくれない。

切ろうとすると泣き喚く。

それに対応できないから、爪切りをやめる。

娘が夜寝る時間は、私が疲れてぐったりしてしまう。

だから、もう毎日どうしていいかわからない。。。

と、今思えばこんな些細な出来事は、当時の私にとっては、日常の中でとてつもなく深刻な問題になっていました。

夫の母が、親業など、長年カウンセリングなど学んできた人なのですが、当時、夫の母に電話で相談したときに、「そうなのね。いま、混乱して、葛藤してるんだね。」と、夫の母が私の状況を整理してくれたことで、私は、一瞬時が止まったかのようにハッとしました。

「そうか、私は、混乱して、葛藤してるんだ。」と、当たり前のことですが、自分のことを客観的に見ることが出来ました。

その日の夜に、興奮して、夫にそのことを伝えたことを思い出します。

「今日、すごいことに気がついたの!そうよ!私は、混乱してるし、葛藤してるの!」って。

当時の夫の反応そうであったように、混乱して葛藤したことない人は、「だから何?」と言って笑うかもしれませんが、その最中にある人にとっては、とても大切な気づきの一歩なのです。

トップダウンセラピー

ちょっと前にセラピー系の情報として出回っていたこの画像に日本語訳を入れて、少々アレンジしてみました。

左側のトップダウンセラピーという表現は、トラウマ治療で有名なヴァンデアコーク博士が提唱したものだと、発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療(杉山登志郎著/2019)で知りました。

今生じていることを整理して、自分ができることを選択するという意味で、私が体験した娘の爪切りについての発見は、認知行動療法的な気づきなのだと思います。

その意味で、当時の私の体験は、トップダウンセラピーと言えますね。

それ以来、娘の爪が切れないことで、葛藤はしなくなりましたが、じゃあ、どうやったら、爪を切れるようになるのか、そのような混乱や葛藤、もっといえば、持つ必要のない罪悪感で自分を責めることがなくなるのかというと、この図の右側のボトムアップセラピーが、必要となります。

ボトムアップセラピー

ボトムアップセラピーとは、まさに、この考え方を提唱しているヴァンデアコーク博士の専門、ソマティックエクスペリエンスなどのトラウマ療法のことで、身体機能、身体感覚にアプローチするものです。

ハートエデュケーションセンターが提供している、インナーチャイルドワークは、自我ワークと呼ばれますが、無意識に存在する別々の人格(パーツとも呼ばれます)と対話しながら、愛によって統合していくものです。

日本では、少々誤解されている節もありますが、本来インナーチャイルドワークは、無意識の防衛を理解し解くこと、つまりアダルトチャイルドとの和解という土台の上でなされるものです。傷ついた、かわいそうなインナーチャイルドを癒すという理解だけでは、自我ワークとは言えず、また効果も一時的なものに止まってしまいます。

また、ファミリーコンステレーション(家族の座)とは、家族がどのように関わっているか、その無意識の構造を明らかにしながら、家族の中の《もつれ》をほどき、最善の状態へと導く手法です。

私自身も、最初にそれを体験したとき、また、その後トレーニングの最中で、目の前で展開される出来事に驚き続けました。それくらい、ショッキングであり、感動に満ちていて、人の奥深さ、魂や愛と呼ばれるものの偉大さに、ただ、首を垂れたくなりました。

私自身が、インナーチャイルドの理解を土台としてトレーニングに臨んだからとも言えますが、ファミリーコンステレーションとインナーチャイルドワークは、ある部分で深く結びついたワークのように感じます。

そして、インナーチャイルドと言われる自我(パーツ)の認識だけでは触れられない、さらに深い場所に、ファミリーコンステレーションは誘ってくれます。

ただ、自我について理解していなければ、ファミリーコンステレーションでタッチできるものも浅い場所に止まります。

つまり、自我を認識し、対話し、統合するプロセスが進んでいなければ、家族の《もつれ》を解く準備もできていないと言えるのです。

癒しの準備

私自身は、個人的に、ソマティックエクスペリエンス、それに近い身体的アプローチのメディテーションやワーク、インナーチャイルドワーク、ファミリーコンステレーションというボトムアップセラピーから、多大な恩恵を受け取ってきました。

ですが、それには、とても時間がかかりました。

金銭的な都合や時間はもちろん、私自身の成熟がなければ、ワークを深めていくことはできませんでした。

これらは、成長を望む大人が、学びたい、知りたいという自らの意志で選択して、現実を整えながら、探求にチャレンジしていくことで、癒しの効果がより大きくなるものだと言えます。

残念ながら、その意味で、即効性があって、万能なものとはいえません。

それでも、インナーチャイルドワークを世界的に広めた、ジョンブラッドショーは、「インナーチャイルドワークの効果はとても早い。」と熱く語っています。

私も、様々なセラピーを渡り歩きながら、インナーチャイルドワークの効果の大きさと速さに納得します。

ただ、それは、一朝一夕にはいかないという意味で、即効性はないのです。

以前、私たちが提供するワークにいらしたある参加者さんは、目の前で展開したことをみて、怒り出しました。

「こんなもの信じられない!」と言って、ワークの途中で、過去の家族への憎しみや、出来事のドラマのあれこれを語り出しました。

「今それを語る必要はありません。」と冷静に伝えても、なかなかその人のおしゃべりが止まらなかったのは、その人に事実を整理するためのトップダウンセラピーが足りてないとも言えますし、ボトムアップセラピーが足りてないから、歪んだ認知と抑圧された感情に翻弄されて、反応が止まらなくなったのだとも言えます。

残念ながら、その人は、癒しを受け取る準備ができていなかったのだと思います。

画像右側ボトムアップセラピーの例として一番下に書いてあるEMDRとは、眼球運動によるトラウマ療法ですが、トラウマについて言語化できない幼い子どもや混乱の真っ只中にあり、内的な感覚を整理できない人にとって、とても有効な治療法だと言われています。

医療関係者のみが提供できるというEMDRは、過去のドラマを語り出すほど混乱していたその人には、有効だったかもしれません。

ハートエデュケーションセンターでは、「学びたい」「知りたい」という意志を持った方と共に学ぶ、セラピーの私塾です。

私たちは、各種講座で理論を学ぶことで、トップダウンセラピーによる内的な整理をおこなっています。

そして、インナーチャイルドと呼ばれる自我(パーツ)との対話、呼吸や身体感覚を通じた癒し、家族のもつれを解くワークで、ボトムアップセラピーをおこなっています。

そのどちらもが、互いに相乗効果を発揮して、癒しの準備を整えていると言えます。

そんな準備が整った方は、セラピーを受けなくても、日常の中で気づきが増し、あらゆることがセルフセラピーとして、効果を発揮していくのです。

結果は現実に現れる

トップダウンセラピーもボトムアップセラピーも、その治癒プロセスや結果は、外からはメモリや数値で観察できませんから、あくまでも自分の感覚だけを頼りに歩む道と言えます。

ただ、もう一つ、治癒の結果として明らかなのは、環境や家族のあり方が、目に見えて変わってくるという点です。

不登校だった子どもが、なぜか学校にいくようになるとか、夫との関わりが変化するというのは、その典型です。

仕事の変化や、人間関係の改善、収入や充実感などの人生そのものの豊かさの体験も、同様です。

ですから、逆にいうと、この現実的な変化がなかなか起きないというのは、実は認知能力が、まだ回復してない状態と言えます。

混乱してると、1回のセッション(グループワーク)で得られることの幅も小さいです。

まさに、私が体験したように「私は、娘の爪切りで自分が葛藤してるんだ。」と認識できたくらいの、ある人から言わせると「だから何?」というようなレベルの気づきです。

ですが、その小さな気づきを繰り返すしか、やはり癒しは生じません。

この画像が示すように、その小さなステップを繰り返すしか、はしごの高みには登れません。

やってもしょうがない、何も変わらないのだとしたら、やはりセラピーに取り組むしか変化は起きないというのも、セラピストとして、回復の道を歩むサバイバーとして、みなさんにお伝えしたいと思います。

続く